学園怪談2 ~10年後の再会~


『百物語を完成させたら大変な事が起こる』

 少なからず霊感が強いと自称する者や、様々な例体験を実際に経験したという者もいた。その全員が、この99話の間に室内の異様な空気に気が付いていた。怪談の話によくあるジメジメした空気……いや違う、体温が2、3度下がったかのような感じ……いや、それも違う。なにか心臓が締め付けられるかのような息苦しさのような気配が濃くなった気がした。油断をしたら呼吸がとまってしまいそうなほど、室内の気圧がおかしいんじゃないかと言うほどの息苦しさを感じた。
 それは、ほとんど幽霊など信じない喜多川にとっても、少なからず肌で感じるレベルだった。もう認めない訳にはいかない程に……。
「や、やめるなんて言うなよ。だって、99話だぜ? ここまで来て最後までいかないなんて逆に、おお、お笑いだ」
 声が震えているのが自分でもわかった。恥ずかしかった。でも、それを笑う空気すらもその場所には存在しなかった。
「いやああ! もうやめましょう! 私、私、帰りたい!」
 ガタガタガタ!
 突然の出来事に、喜多川は足に根が生えたかのように動けなかった。
 一人のメガネをかけた女生徒が、突然教室からの逃走を試みたのだ。あまりの恐怖に半狂乱の顔は……酷く醜く歪んでいた。今まで怪談を楽しく話していた女生徒とは別人のようだった。
「おい、落ち着け……って、ドア、ドアが開かないぞ!」
 止めに入った年配の男子生徒がドアの取っ手を引くが、ドアはスライドしない。
 教室のドアは木製で、事故防止のためにカギはかからない。それにワックスなどが充分すぎるくらい効いているはずなのに、まるで接着されたかのように固く閉ざされてしまった。
「おい、木崎、そっち引っ張れ!」
「は、はいい!」
 慌てて数名の男子がドアを開けようと試みるが、一向にドアが動く気配はない。
 パチッ、パチッ、パチッ。
 部屋の中空から何やら音が聞こえる……。何も存在しないはずの空間から響き始めたのはラップ音だ。
「ほら! 始まった。やっぱり百物語なんてしない方がよかったのよ! 私たちはみんな呪われてるのよ! このままみんな呪い殺されるわ!」
 さっきの女生徒が泣き叫びながら、喜多川を睨みつける。それと伴にラップ音が大きさを増す。