「さあ描きなさいミク。ペンギンさんをしっかり見たものね、それに忘れても写真もしっかり撮っておいたから」
 ママはクレヨンとミクの描きかけの絵を引っ張り出し、ちゃぶだいの上に広げる。
「……」
 ミクは動かなかった。
「どうしたのミク? あなたのやり残した事よ?」
 しかし、それでも反応はない。
「違った……か。ミクのやり残したことは他にあるんだ」
 パパは残念そうに二人を眺めた。そして、ミクを膝に抱きあげると優しく抱きしめた。
「必ず、必ずお前を成仏させてやるからな」
「……」
 ……。
 それから、二人はあらゆる手段を試みた。ミクの好きだった食べ物を与えた。欲しがっていたペットを飼ってみた。大好きな絵本を読んであげ、毎日の添い寝もしたし、保育園にも連れて行った。
 ……しかし、いくら試行錯誤を繰り返してもミクは何の反応も示さなかった。二人が期待を込めてミクのために行う全ての行いは、どれも空振りに終わった。
「もう……どうしたらいいんだ」
 二人は精根尽き果てていた。ミクが現れてから、もう2週間ほどだ。もう体力も気力も限界に達していた。
「パパ。ミクはやっぱり私たちと一緒に暮らしたいのよ! いいじゃない、このままの姿でも。私たちは普通の家族と何も変わらないわ! ちょっと、ちょっと喋れないだけ、ちょっと見た目が変わっているだけ、ちょっと……ちょっと意思表示ができない……ちょっと、ちょっと……うううう」
 ママが声を押し殺して嗚咽を漏らした。
 ミクと共に暮らしたい。でも、それが本当は叶わない願いであること、またコミュニケーションがとれずに心を通わせることのできない苦痛に心が折れたのだ。
「……」
「どうしたら、どうしたらいいんだ」
 パパも泣いていた。たった、たった一瞬だった。ミクが死んでしまった……あの僅か一瞬の出来事がこれほどまでに家族を苦しめる結果をもたらしたのだ。呪っても悔やんでも取り戻せない一瞬。そして、その一瞬に関われなかった今の自分を憎んだ。