……どく、どく、どく。
 心臓が脈打ちつつも、部屋に上がってミクの側まで歩いた。
「……ただいま、ミク」
 どこか落ち着きながら、でもどこか悲しみを含んだ声をミクにかけた。
「……」
 いつもどおりに、ミクはパパを見上げた。しかし、その白目からは何の意思も伝わってこない。
 あり得ない現実、そして、あり得ない行動をしている自分に何の疑問も持たなくなっていた。感覚が、もしくはママと同じように、頭がおかしくなってしまったのかもしれない。
「パパも隣に座ってあげて。ミクと遊んであげましょう」
 三人で輪を作るようにして、ママゴトの道具を囲んで遊んだ。
「はい、これはパパの分。こっちはミクね」
「お、おいしいなこの魚は。さあ、ミクもいっぱい食べて大きくなれよ」
「……」
 ……そこにはたしかに、家族の団欒があった。歪んだ団欒が……。

 ……幽霊となってパパ、ママの前に姿を現したミク。動揺しつつも、悲しみからか、それとも供養のつもりなのか、ミクとの団欒の時間を再び取り戻した一家。しかし、現実はそんな家族に更に過酷な運命をもたらす。死人は現世では生きられない。ミクの時間は止まったままなのだから。
 しかし、ミクが再び二人の前に現れた理由は別のところにあった。何も語らないミク。何もできない両親。
この家族に、そしてミクに、安息は訪れるのだろうか……。

後編に続く 残り15話