……。
「一人だけ? なんで? だって倒れた二人のうち、一人は熱中症だったんでしょ? そいつも死んじゃったの……!」
『……ううう』
徹さんが斎条さんに質問したのと同時に、保健室内に苦しげなうめき声が聞こえた。
「きゃああ、何なの今の声」
「そっちの衝立の方から聞こえた気がしたぞ」
能勢さんと淳さんが衝立の奥を覗き込んだ。
「あ!」
「うう、こ、これは」
衝立付近の二人は中を覗いたまま固まってしまった。
「いったい何が見えるんですか?」
私は二人をかきわけるようにして、すき間から中を覗いた。
……中にはうっすらと、本当に透けて微かに見える程度の人影が見えた。人影は苦しそうに腹を押さえ、痙攣をし、口から泡を吹いていた。
「た、大変です! すぐに救急車……」
慌てる私の肩を能勢さんが押さえつけ、首を振りながらベッドを指さした。
すると、うっすらとしか見えていなかった人影はスーッと消えてしまった。
「き、きき、消えた」
私は目の前で起こった事実が信じられず、眼を擦って何度も瞬きをした。
茫然と立ち尽くす私たちに斎条さんは話を続けた。
「最初に保健室に運び込まれたサッカー部の生徒なんですが……彼は腹部の怪我より、その前日から痛み始めていた盲腸の方が問題だったみたいです。保険医の先生も怪我の方に目がいってしまい本当の病気に気がつかなかったようです。彼は保健室に残された後、痛みが酷くなり起き上がれなくなりました。保険医の先生はバスケ部の生徒に付き添ったために遅くまで校舎に戻れず、発見が遅れた生徒は……」
……もう何も聞こえない。
保健室は静寂を取り戻した。
この後、全員で衝立の向こう側に黙祷を捧げた。孤独に死んでいった浮かばれない生徒の霊を想いながら。
「よし、いい加減遅くなったし、音楽室に行こうぜ」
大ちゃんさんの声にみんながゾロゾロと保健室を後にした。
「成仏してくださいね」
私は最後にもう一度、保健室の中にお悔やみの言葉をかけると廊下に出た。
時刻は23時をまわったところだった。
残り21話
「一人だけ? なんで? だって倒れた二人のうち、一人は熱中症だったんでしょ? そいつも死んじゃったの……!」
『……ううう』
徹さんが斎条さんに質問したのと同時に、保健室内に苦しげなうめき声が聞こえた。
「きゃああ、何なの今の声」
「そっちの衝立の方から聞こえた気がしたぞ」
能勢さんと淳さんが衝立の奥を覗き込んだ。
「あ!」
「うう、こ、これは」
衝立付近の二人は中を覗いたまま固まってしまった。
「いったい何が見えるんですか?」
私は二人をかきわけるようにして、すき間から中を覗いた。
……中にはうっすらと、本当に透けて微かに見える程度の人影が見えた。人影は苦しそうに腹を押さえ、痙攣をし、口から泡を吹いていた。
「た、大変です! すぐに救急車……」
慌てる私の肩を能勢さんが押さえつけ、首を振りながらベッドを指さした。
すると、うっすらとしか見えていなかった人影はスーッと消えてしまった。
「き、きき、消えた」
私は目の前で起こった事実が信じられず、眼を擦って何度も瞬きをした。
茫然と立ち尽くす私たちに斎条さんは話を続けた。
「最初に保健室に運び込まれたサッカー部の生徒なんですが……彼は腹部の怪我より、その前日から痛み始めていた盲腸の方が問題だったみたいです。保険医の先生も怪我の方に目がいってしまい本当の病気に気がつかなかったようです。彼は保健室に残された後、痛みが酷くなり起き上がれなくなりました。保険医の先生はバスケ部の生徒に付き添ったために遅くまで校舎に戻れず、発見が遅れた生徒は……」
……もう何も聞こえない。
保健室は静寂を取り戻した。
この後、全員で衝立の向こう側に黙祷を捧げた。孤独に死んでいった浮かばれない生徒の霊を想いながら。
「よし、いい加減遅くなったし、音楽室に行こうぜ」
大ちゃんさんの声にみんながゾロゾロと保健室を後にした。
「成仏してくださいね」
私は最後にもう一度、保健室の中にお悔やみの言葉をかけると廊下に出た。
時刻は23時をまわったところだった。
残り21話

