……。
 夏休みのある日。
 お盆も近く、学園に来ている生徒は運動部の生徒が少しいるだけで、校舎内には人影はほとんどなかったようです。
 猛暑続きのために外での部活を自粛した部活もあるなか、その日はバスケットボール部とサッカー部が活動をしていました。
 この日の学園内は、部活動の顧問の先生と当直の先生以外では保険医の先生がいるだけでした。
 普段は喧騒が溢れる学園も、休暇中はさみしい程に静かです。
 ……でも、平和な時に限って予測もつかない事は起こるものです。
「いててて、いてえよ~」
 サッカー部の一人が仲間に肩を貸されながら保健室を訪れました。
「どうしたの? 怪我?」
 保険医の先生が、痛そうに顔を歪めるサッカー部員に近寄りました。
「こ、こいつセンタリングされたボールをクリアーする際に他の奴と接触しちゃって」
 肩を貸している先輩らしい部員が、痛みを訴える生徒の代わりに説明する。
「どれどれ、そこに座らせて」
 腹部を抑えるその手の下には、血液が流れたのか白いユニフォームを赤く染める箇所が発見されました。
 すぐにユニフォームを脱がせ、ベッドに横にしたところ、スパイクで切れたであろうキズが姿を現した。
「うわあ、痛そう」
 血が苦手なのか、先輩部員が目を背ける。
「大丈夫よ、見た目は切れてるから酷い怪我に見えるでしょうけど、大したことないわ」
 そう言うと、保険医の先生は手早く消毒をして傷を絆創膏で塞ぎました。
「さあ、じゃあ君はもう部活に戻りなさい。この子は少しベッドで休ませるから。顧問の先生には腹部の怪我だから大事をとって帰宅させると伝えてちょうだい」
「わかりました。おい、じゃあお大事にな」
 治療を受けた部員は先輩部員に弱弱しく手を挙げると、ベッドに横になりました。
「少し痛む? もし痛みが酷いようなら鎮痛剤もあるけど飲む?」
 生徒は迷うことなく頷き、薬を飲んだ。
「少し休んで、気分が落ち着いたら帰っていいからね」
 生徒は力なく頷きました。