学園怪談2 ~10年後の再会~

 ……。
「遥は無事だったよ。でもケーキの中に入っていたカミソリで口内を酷く切ったから大変だったみたい。しばらくは口もきけなかったし食べることも出来なかったんだって」
 あまりの痛い話に、血が嫌いな能勢さんが震え上がる。
「でも、いったいどうしてカミソリなんかが?」
「うん……。実はね、ケーキを取り分けた美夏さんが入れたみたいなの。自殺した正治さんの元彼女だったらしくてね、正治さんを取られて、なおかつ一方的に別れて自殺に追い込んだ遥を許せなかったみたい」
 私は男女間の恋愛のもつれの恐ろしさを垣間見た気がした。
「は~、凄まじいですね~。殺人未遂ですか~」
 すると紫乃さんは私の言葉を遮って続けた。
「でもね、実は後から遥に聞いたんだけど、遥はケーキを食べた際にカミソリにビックリして思わず何かを飲み込んでしまったそうなの」
「え、何かって?」
「それが……どうも人間の指じゃないかって」
 言葉の意味をにわかに受け入れられない私に、なおも彼女は続けた。
「ケーキの中に入っていたのはカミソリだけじゃなかったみたいなの。なんでもカミソリが口に刺さったと思った瞬間、喉の奥にウインナーみたいな形をした何かが入り込んで来たから、思わずそれは飲み込んじゃったみたいなの。そして……飛び降り自殺した正治さんの遺体には左手の薬指がなかったんだって……」
「そんな……ばかな。それがまさか?」
「正治さんの指は今も見つかってない。遥が病院で検査を受けた時……胃のレントゲン写真にはっきりと指の形が浮かび上がっていたんだって。……遥は手術で胃の中を調べたそうだけど何もみつからない。でも何度レントゲンを撮りなおしてみても指の影は消えない……とうとう彼女はおかしくなってしまって、今は精神病院にいるわ」
 それ以上は話すのが辛くなったのか、紫乃さんは口を閉ざした。
 ……私には男女間でいったいどんなトラブルがあったのかは分からない。ただ一つ思った事は、正治さんの遥さんを想う気持ちは死してなお、永遠に……文字通り彼女のナカで生き続けるのだろうという事だけだった。

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