……俺の友達に八田っていう意外にマジメなやつがいてさ。そいつは頭もよくて将来は政界にデビューか、大企業にでも就職するんじゃないかって思ってたけど、なぜか2流ゴシップで有名な週刊誌の編集記者として就職したんだ。そして、八田はそこで数々の事件やゴシップネタを扱った。その中で……妖怪のの特集の際に本物の妖怪に遭遇したんだ。
 ……。
「ここ、ここだ。口裂け女が出るって噂の林道は」
 八田は入社3年目の夏、その年入社したての新人の女カメラマンと一緒に取材に取り込んでいた。
「口裂け女。そんな妖怪本当にいるんですかね~。実際はただの風邪っぴきのおばちゃんじゃないですかね?」
「おいおい七瀬君。俺はそんじょそこらの霊媒師なんかよりもよっぽど霊感があるんだぜ。今だってキミの足元に自縛霊が……」
「ぎゃああ!」
「冗談だって~」
 ポカポカと八田を殴る七瀬。寂しい林道に二人のはしゃぎ声が木霊した。
 ……そして夜も更けはじめ、23時をまわった。
 ここは最寄りの駅から住宅街を繋ぐ近道になるが、大通りから離れているため街灯も少なく夜は人通りがまるでない。昼間であればのどかな散歩コースになるものの、夜となれば不気味なことこの上ない。
あたりに人の気配はない。本当にここが都内なのかと思える程に静かな場所だ。
二人は手近な茂みの陰に新聞紙を広げ、通りが見渡せる場所で待機していた。少し先には街灯に照らされたベンチも見える。
「よおし、いい位置だぞ。今日は満月だからな必ず奴は姿を現す」
「本当かなあ? まあ、待つだけが仕事でもやりますけどね」