「どうしましたか!」
 騒ぎを聞きつけて2名の女性看護士が飛んできたが、半狂乱になった祥子を取り押さえこともままならず、病室内はパニック状態に陥った。
「いやあ! 死ぬ! 死んじゃう私! 針が、針が刺さる!」
 祥子は胸を押さえて動悸を止めようと試みる。
「落ち着いて、落ち着いてください! あなたの手術は成功しました。胸に針なんてありません! 大丈夫だから落ち着いて! 早く、ドクターを早く呼んで!」
 一人は祥子を押さえつけ、もう一人は慌てて病室を飛び出した。
 間もなくドクターが来て祥子に注射をうち始めた。
「大丈夫ですよ、大丈夫。ほーら、もう落ち着きますからね」
「いやあ! 痛い、心臓が痛い! チクチク刺さってくる!」
 祥子の言葉に医者は耳を貸さず、ただ落ち着かせようと処置をする。
「どうしたのかしら彼女……キズなんてどこにも無いのに痛がって……」
「きっと頭がおかしくなっちゃったのよ」
 ……看護師の二人が小声で言ったことも、もちろん祥子の耳には届かなかった。
「きゃああああ! 苦しい、苦しい、息ができない!」
 祥子は苦痛で気がどうにかなってしまいそうだった。その時……。
 バタン!
「祥子! 今助けてやるからな!」
 薄れゆく意識の中で、祥子はおぼろげな兄の敦の姿、そして隣に怪しい格好をした山伏のような大男の姿を見た。

 ……。
「祥子はね、兄の敦が連れてきた霊媒師のおかげで一命を取り留めたらしいよ」
 大ちゃんさんの話が終わった。
「結局、目には見えなかったけれど針はあったんですね」
「ああ、やっぱり心霊スポットなんて興味本意で行く場所じゃないね。祥子のように命の危険に至るケースは枚挙に暇がないんだ。気をつけた方がいい」
「やっぱり霊感がある人とない人でも結構違うものなのかな……」
 紫乃さんのつぶやきを最後に、次の怪談へと話は移るようだ。
 ……まだまだ、怪談は続く。

残り26話