……学校で彼女の異変に気づいた人はいなかった。ただ昨日までと同じ時間が過ぎてゆく。
「昨日のことは夢だったの? でも……やっぱりある」
 休み時間。トイレで確認してみたが、それでもキズは相変わらず靴下の下にある。それもはっきりと目立つ大きさで。
「明日にでも病院に行こうかな……でも、痛くないし……」
 祥子はキズに痛みがないことで病院には行かなかった。
……そして、数日が過ぎた。
「いやああああ!」
 朝の洗面所に将子の悲鳴が響き渡った。
「どうした祥子!」
 バタン! 
「いやあ! 出てって!」
 妹の悲鳴を聞いて慌てて助けに来た敦は、すぐさま追い出された。
 それもそのはずだ、祥子はスカートを下していたのだから。
「な、なんなんだよ祥子! 悲鳴をあげたから様子を見にきてやったのに追い出すなよ!」
「ごめんお兄ちゃん。何でもないから大丈夫……」
 祥子は今度は落ち着いた声で敦に返事を返した。
「そうか? ならいいけどよ。ビックリさせるなよ」
 敦はそれ以上深く追求せずに去って行った。
「……どうしよう」
 一人になった洗面所で祥子は再びキズと向き合った。
 ……キズは大きくなっていた。今度は小指の第一関節くらいの長さになっている。もう最初についたキズの大きさとは比べ物にならない。しかし、問題はそれだけではなかった。キズの位置が……移動していた。
「どうしてキズが太ももに……」
 祥子は太ももに移動して、さらに大きくなったキズを目にして、慌てて病院へ向かった。
 ……しかし、整形外科で診断してもらったものの、キズには何の痛みもなく、レントゲンを撮ってみても何も映らない。医者の診断では何かの古傷の跡としか思えないということだった。
「そんな筈はありません! 私は過去に怪我なんてしたことなんてないんです」
 祥子の訴えは医者には通じず、その後も祥子は不安な毎日を過ごした。