「どうしたんだろう? 彼は別の場所から帰されたのかな?」
 俺はみんなが帰った後、事件後に姿の見えなくなった並木さんとチーフを探して工場の奥へと歩を進めた。
 作業場以外の場所はほとんど立ち入り禁止だったが、何かが俺の歩を奥へと進めた。
 ……。
「……まったく、雑菌は一番の大敵だからな」
 どこからかチーフの声が聞こえてくる。
 俺は身長に歩を進める。
「お前みたいな雑菌まみれの奴はこの工場にいちゃいかん」
 どこか楽しそうな声が響く部屋の廊下まで来た。
 ガラス張りになった部屋が見えてきた……。
 ……そこには、浴槽のような大きな入れ物の中で、なみなみと満たされた液体漬けにされた並木さん、そして隣でニヤニヤと笑うチーフの姿があった。
 部屋には並木さん以外にも、いくつかの液体漬けにされた人の姿があった。
 ……俺は黙ってその場を後にした。
「……だい、大丈夫だ。俺は何もみていない」
 もしも浴槽の中身が全てエタノールだったら……そんな恐ろしい想像が足を速める俺の頭を過ぎっていた。

 ……。
「その後、俺は直ぐに弁当工場を後にした。並木さんとは別に友達という感じでもなかったから連絡先とかも聞いてなかったし。彼がその後どうなったのかは全く知らない」
 なんともミステリアスな話だった。私たちの食べている弁当は衛生管理の歪んだ産物なのだろうか。
「何か怖いですね。怪談というよりも人間性の恐ろしさを感じる話ですね」
「あ、そういえば怪談じゃないじゃん」
 私の言葉に紫乃さんが続いた。
「うぐぐ、いいんだよ怖ければ。さ、次に行け次に!」
 こうして、怪談はさらに続く。
残り28話