「…ぃ、麗」

はっと顔を上げれば、悶々と考え込んでしまっていたことに気がつく。
思ったより近くに顔があり、固まってしまう。

「な、何だ?」
「…帰るぞ?いつものことだろ?」

教室には私たちしかいなかった。
ずっと瑠衣がいることにも気がつかずにボーっとしていたのか、私は…!
恥かしさにカッと顔が赤くなる。

「悪い…」
「ん」

いつも通り差し出される手に、自分のものを重ねようとして、一瞬躊躇した。

私は、瑠衣に落ちる、おとす、オトサレル…?

「…どうした?」
「ぇ、あ…何でもない」

いつもより少しだけ力を入れて手を握った。



「麗、何かあった?」
「は?何…って」
「いや、さっきボーっとしてた時…見たことない顔してたから、きになったんだよ」

…瑠衣のことを考えていたときか!
どんな顔してたんだ?
見たことない顔って、どんな顔だ?
恥ずかしくなってうつむく。

「…可愛かったけど」
「ん?」
「何でもない。気にするな」

私は、瑠衣にどう思われてるのだろうか。

「……」

わかっている。
私は、GAMEの相手。オヒメサマ。
それだけ、だ。

そう思うのに、分かっているのに。
これ以上踏み込んではいけないと、警鐘が鳴る。
どんなに愛おしそうな顔をされたって、甘い言葉を囁いてきたって。
私を落とすための、手段なんだから。

胸が、イタイ。
この感情をなんというのか、私は知っていた。