イツワリノ恋人

ところ変わって、警察署。

何やら物憂げな顔で言葉を交わしているふたりは、いずれも神崎麗の捜査にあたっていた。

『進展ナシ、ですね』
『そうだな』
『あれだけ聞き込みをしても、目撃者が一人もいないんですよ?彼女の友人からしか証言が取れないなんて…』

新人である彼にとって、証言が皆無に等しい捜査は、かなり厄介だった。

『失踪は午後3時以降ということはわかった。それだけでも大きな進展だ』

言い聞かせるように、苦々しくつぶやいたのは、彼の上司だ。
と、なにやら隣のフロアから騒ぎが聞こえた。
誰かが、受付の人間を無視して、ここまで乗り込んできたらしい。
この警察署では、そう珍しいことでもなかった。
頻繁に、被害者・加害者の家族が乗り込んでくることがあるからだ。

だが、乗り込んできた人間が自分たちの前に現れるとは、また、今回の事件の唯一の証人だとは思わなかっただろう。

『君は、神崎さんの?』
『何をしに来た、ここは君のような子供が来るところじゃ、』

ない、という言葉は紡ぐことができなかった。




『これ、見てください』

私は、上司だと思える刑事のデスクにアルバムを叩きつけた。
渋々、といったふうにアルバムをめくる。
その表情が、一気に強ばった。

『な…っ、これをどこで』
『詳しいことは後で説明します。それより、このアルバムの所有者の家を調べてください。きっと、麗は』

絶対に、そこにいる。