イツワリノ恋人

『この辺のはずなんだが…』

似た路地に、似たような家が並んでいるため、私は完全に迷子になっていた。



……くそ、さっきもここ通ったぞ。
約束の時間まであともう少しだし、早くしないと。

『先生に、電話番号聞いておくべきだったな…』
『神崎さん?』

先生の声が聞こえたような気がして辺りを見回す。

『後ろですよ、後ろ』

振り向けば、玄関まで出てきている先生がいた。

『…!遅くなって申し訳ありません』
『いえ、いいんですよ。もう少しわかりやすい地図を書いてあげればよかったですね』

内心、わかりにくかったとおもいつつ、そんなことないですよと首を振ってみせた。

『どうぞ、上がってください』
『おじゃまします』

落ち着いた感じのリビングに迎え入れられる。

…今更だが、不安になってきた。
この家に教師とふたりっきり…。
やましいことはないが、彼に対して罪悪感が湧いてくる。

まあ、流石にこういう招待を受けるのは私だけってことはないよな。
学校でもフレンドリーな先生だから、今までに何人か招いたりしているんだろう。

そう言い聞かせ、自分を落ち着かせる。

『そうそう、今日ここに来ることは誰にも言ってませんか?』
『あ、はい。ただ、途中で絢加に会って、言いそうになったんですけど…大丈夫です』
『教師が生徒を自宅に招いたなんて、問題になりそうなので』

と、オレンジジュースを出してきた先生に苦笑する。

『先生、私子供じゃないんですから。……!?』

振り向いて先生に話し掛けた私の目に映ったのは、すごい形相で私の頭めがけて鈍器を振り下ろす先生だった。

鈍い痛みで、意識が遠のいた。