イツワリノ恋人

そういった瞬間、ガッと顎をすごい力でつかまれる。

『ごっめ~ん♥麗ちゃ~ん、よく聞き取れなかったわ~、特に最後の方』

ワンモアプリーズ♥と微笑む彼女は、禍々しいオーラを放っている。
…顎がミシミシ悲鳴をあげていて、痛い。

『あ、アン叔母さんは若くて綺麗だからありえるかもな…』
『もーっ、気のせいよ気のせい!』

玄関に押し込まれながら、さっきの違和感がまだ拭いきれていなかった。

それに、何だろう、さっきから…。
嫌な予感がする…。

* * * * * * * * *

『麗、どこか行くの?』
『あ、その…。友達が旅行に行った時の写真見せてくれるって言うから』
『麗、本当に写真とか好きね~。姉さん達の影響かしら』
『…うん、そうかもな』


亡くなった両親は、写真が好きだった。


夏休み前に、仲はいいほうだった写真部の顧問の先生に誘われた。
写真好きだが、写真部には入っていない。
休みの日に、写真を見にこないかと誘われたのだ。

(それでは今度の日曜、お待ちしています)

そう言って渡された先生の家周辺の地図を手に向かう。

『れーいー!』

自分を呼ぶ声に振り向くと、明らかに気合を入れた格好をしている絢加が走ってきた。

『…何?どうしたんだ、今日は何かあるのか?』
『合コン。麗こそ何、何かあるの?私も行きたーい!』
『…おい。先約があるんじゃないのか?合コン行くんだろ?』
『えー、だってせっかくの休日をむさくるしい男どもと一緒に過ごすより、麗と一緒のほうが、嬉しいし楽しいもん』

言葉は嬉しいが。
……お前は手のかかる子供か!?

『とにかく今日はダメなんだ。一人でくるように言われてるし…』
『?誰に?』

…あ、ヤバイ。口が滑ったとはこのことだろう。

『な…何でもない』
『えー、気になるー!』
『帰ったら、お前にはちゃんと電話してやるから』

って、うわ!
本当に時間がない!

『それじゃ!』
『約束だよ、電話待ってるからねー』