不意に、唇をふさがれる。
優しく、啄ばむように。

『今のうちに、一か月分のキスでもしておきますか?』
『…!』

ぱくぱくと、いいたい事はあるのに言葉が出てこない。
冗談めいた口調と微笑みの癖に、目は本気だからたちが悪い。

『家の前だ!こんなところでできるわけがないだろう!』
『クスクス…わかってますよ、からかっただけです』

嘘付け。

『私がいない間、課題はしっかりやっておくんですよ』
『わかったわかった』
『甘いもの食べすぎないでくださいね』
『食べない食べない』
『くれぐれも変な男には付いていったり…』

だーー!

『さっさと行け!去れ!』

変な男と言うか、お前以外についていくわけがないだろう、と睨み付ければ、もう一度キスをされた。

『残念ですが、続きは帰ってきてから、ですね』

メールしますね、と去っていく背中を見送った。

『はぁ~…』

『愛されてるのねぇ。見てるこっちが恥ずかしくなってきちゃったわ』

くるりと振り返れば、後ろにいたのは…。

『ああああアン叔母さま?いいいつからそこに』

両親を失った私の保護者、アンジェリーナ叔母さまだった。
アン叔母さんは日系イギリス人で、彼女も夫をなくしている。
医者である彼女には、何度も世話になった。

『や~ね~♥別に盗み見してた訳じゃないのよ?ただなかなか出て行くタイミングがつかめなくって~』

…結局同じことじゃないか!

『大体見られるのがいやなら玄関前でいちゃつくんじゃないわよ』
『いちゃついてなんか…』

ジャリ…

『…?』

”ジャリ”?

『麗、どうしたの?』
『…向こうから、誰かがこっちを見ていたような気がして』
『やだーちょっと…。怖いこと言わないでよ。まさか私のストーカーとかじゃないでしょうね』
『いや、それはないんじゃないか?年齢的に考えて』