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3年前

『麗ちゃん、思い出したくない、忘れ去りたいって言うあなたの気持ちは良くわかるわ』

病院のベッドの上。
雨が降る窓の外を見つめ続ける私に女性の刑事さんが問いかける。

『だけど、貴女につらい思いをさせた犯人に厳しい処罰を下すためにも、貴女の証言が必要になってくるの』

私は答えない。

『一週間、どんな状況の中にいて、どんな被害を受けたのか。話しにくいかもしれないけど…』

面倒くさい。

『少しずつでいいから、ゆっくり私に…』

…もう、どうだっていいじゃないか。
もう全部、


もうぜんぶ

        おわったことなんだから。


怪我だってたいしたことない。
こんなのすぐ治る。
そうだ、あんなの…。

たいしたことじゃない。





『明日からだったよな』

3年前、私には高校生の彼氏がいた。
彼はずば抜けて優秀で、夏休みの一ヶ月を使って短期留学にいくことになっていた。

『いつ頃こっちに帰ってくる?』
『8月の末くらい…ですかね』
『そうか、一ヶ月…』

一ヶ月も会えないのか…。
少しうなだれた私の頭を、彼はなでてくれた。

『一ヶ月なんかあっという間ですよ。そんな寂しそうな顔なさらないで』
『な…っ!勘違いするな、別に寂しがってなんかない!』

顔は絶対真っ赤で、説得力なんかこれっぽちもないだろう。
でも、嬉しそうな彼を見ているうちに、もっと寂しくなってきた。