『その腕・・・・どうしたの・・・』
あたしが呆気にとられていると、彼が目を真っ赤に充血させて
「お前が悪いんだよ・・・。勝手にいなくなったりするから」
睨みつけられて、優しい彼が初めて怖いと思った。
『・・・ご・・・ごめん』
睨みつけられたあたしはそれしか言えなかった。
あたしが謝って、彼はようやく正常に戻った。
腕を消毒して、近くのコンビニで買った包帯を彼の腕に、巻くと
いつもどおりの優しい笑顔で
「ありがとう。美奈」
そう言って、あたしを優しく抱きしめた。
『う、うん』
あたしの顔が若干ひきつる。
この人を怒らせちゃダメだ・・・。



一時間後。
都市部へ行く電車がホームへと止まった。
これであたしの運命が変わる。
覚悟を決めて、電車へと乗り込んだ。
お昼ごろだったため、そこまで混んでいなかった。
あたしと彼はボックス席へと二人で座り、
「・・・一緒に来て本当によかったの?」
彼が不安そうに聞いてくる。
さっきまでの勢いは、どこにいったんだと言うほど不安でいっぱいの顔であたしを見る。
『うん・・・。あの家にはいたくないから・・・』
あたしが少し微笑みながら、言うと
「でも・・・」と、言葉を続けてくるのを
『大丈夫だって!!』
そう言って遮った。
それを最後に、都市部に着くまで彼とは話さなかった。
いつの間にか、あたしは彼の膝で寝ていてしまった。
はっ!と目を覚ますと、あたりは真っ暗だった。
「もうつくよ」
彼が荷物をまとめ始めて、あたしも真似するように自分の持ってきた荷物を持つ。
「終点~。終点です~。お忘れ物ございませんよう、ご注意願います。」
車内にアナウンスが、響く。
周りを見ると、スーツ姿のおじさん達がいた。
きっと残業で、帰る途中なんだろう。



都市部におりたあたしは目を疑った。
あたしの地元では、絶対見れない高いビル。
それに、たくさんの人達。
『すご・・・・・』
それしか言えなかった。
あたしが見とれていると彼が後ろから
「適当に、ホテルとろっか。明日早いから」
そう言って、駅の周りを歩き始めた。
ビジネスホテルや居酒屋。
それに、バラエティショップ。
どれも初めて見る光景ばかりだった。
「ここにしよ」
彼が足を止めたのは、一泊1890円という格安のホテルだった。
当時お互い学生だったこともあって、できれば無駄な出費はおさえたかった。
正直、見栄えはかなり悪かった。
今にも潰れそうな外観に、あたしの気は少し引けていた。
しかし、彼は平然な顔をしてホテルへ入って行く。
あたしもその後をくっついて、ホテルの受付へと向かった。
「いらっしゃいませ」
おじさん・・・いやそれ以上のおじいさんがあたし達を出迎えてくれた。
「二人泊まりたいんですけど、部屋空いてますか?」
「あー・・・。おふたりですかー・・・。少々お待ちを」
そう言って奥の方に消えていった。
どうやらおじいさんしかいないらしい。
数分後。
おじいさんは
「ちょうど、ダブル空いてますよ。今、ご案内しますね」
ニコッと笑い、あたしたちの荷物を持ちエレベーターへと乗る。
「おふたりは・・・カップルですよね?」
部屋へ向かう途中、おじいさんが話しかけてくる。
「えぇ。そうですよ」
彼が受け答えする。
そんなのが何回も繰り返して、部屋についた。
やっぱり外観だけじゃなく、内装もけっこうひどいものだった。
壁はところどころはげて、とても綺麗とはいいにくい内装だった。