─1年前


14歳の絽美は、いつもと同じように町に下り、もらったパンが入った紙袋を抱えて歩いていた。


春の暖かい光に照らされたレンガ造りの家たちの間を縫うようにしていく。


「絽美ちゃん!」


すると、名前を呼ばれた。


そちらを見てみると、果物屋をしているおばさんがいた。


(前、夢を見させてあげた人だ。)


なんでも悪夢を見やすいから何とかしてくれ、だとか何とか。


「林檎いるかい?」


ふっくらとした感じの女性だ。


林檎を持って振っている。