「あ。ってなに。」

「なーんだ、笠坂くんか!誰かと思っちゃったよ。」

ひらひらと降ってくる雪をかぶりながら加奈は明るい笑顔で答えた。

傘を持っていない彼女の上に傘をさして篤希は拾った本を渡す。

「はい、落ちてた。」

「ありがとう。わあ、散々だ。」

散らばったカバンの中身を拾いながら加奈は呟いた。

その口調に何の憤りや悲壮感の無いところが彼女らしい。

凍える手で拾う加奈を手伝い、篤希も傘の位置を意識しながら手を伸ばした。

「いいよ、寒いし…。」

「2人でやった方が早い。」

加奈の言葉を遮って篤希は拾ったばかりのノートを手渡す。

反射的に受け取った可奈は、少しの間をおいて照れくさそうに笑った。

「ありがとう、お言葉に甘えます。」

どこか畏まった言い方に篤希も表情をゆるめる。

拾っては加奈に渡す、リズムよく行う作業だったが次に手にした本に目が留まり篤希の動きが止まった。