「駅まで…。」

「いいの!ここで。」

篤希の言葉を遮り加奈は首を振った。

目を泳がせて無理やり笑顔を作る彼女の様子は明らかにおかしい。

加奈が焦っているのが分かり篤希も焦り始めた。

胸元で小さく手を振り加奈が口を開く。

「じゃ…元気でね。」

加奈が踏み出し篤希の横を通り過ぎていく、その瞬間、篤希は無意識に加奈の腕を掴んだ。

振り向かされた加奈の目は潤いを帯びている。

1度瞬きをすると大粒の涙が零れ落ちたのを篤希は見逃さなかった。

手に力を込めて加奈を引き寄せ、そしてどちらともなくキスをする。

触れるだけの優しいキス。

しかし1度離れた唇はまた求めてさらに深いものになっていった。

何度も何度も別れを惜しむように2人は離れようとはしない。

いつしか篤希は加奈の顔を、加奈は篤希の背中に触れてお互いを求め続けた。

長い長いキス、でも満たされることのない短いキス。