なんっつーか。


気に入らなかった。


もやもやしたものが巣食って、俺はそれに気付かない振りをすることでやり過ごそうとする。


「……お兄ちゃんの鈍感」


自分のことに必死で、俺が美和の呟きに気付くことはなかった。


やっと口を聞いてくれるようになった美和との時間を、他の女のことなんかで無駄にしたくなかった。


先輩の店は、開店直後なのに結構混雑していた。


この店、俺が思うよりずっと人気があるらしい。


「美和ちゃんのリクエストならなんでも作るよー」


満面の笑顔を浮かべる先輩。


美和も美和で、にこにこしていて。


…なんか俺、居場所ない感じ?


「先輩。美和にちょっかい出さないでもらえますか」


一応、念を押せば。


「シスコンが悪いとは言わねぇけど、度を越すのもどうかと思うぜ?度が過ぎて美和ちゃんを不幸にすんなよ?」


先輩はケラケラと笑う。


俺は不貞腐れた。


先輩には、全部見抜かれてる。


「お兄ちゃん。私、お手洗い」
「あ、あぁ」


美和が居なくなると、先輩は急に真面目な顔をした。


「おまえさぁ?なんかあっただろ」
「なんかって、何もないっすよ」
「嘘つくなよ…いや、違うか。おまえが自分で気付いてないだけか」


先輩は顎に手を当てて、一人で納得したように頷いている。


「何だって言うんですか」