ガッシャーン!


「貴弥!」


食器が割れる音が響いて、私の目の前で、貴弥の身体が床に倒れた。


「ふざけんなよ!てめぇの女遊びの尻拭い、女にさせてんじゃねぇよ!」


貴弥の前に仁王立ちしてるのは、私の兄貴。


そう。


例の女の子と会う予定のお店に行き、私が彼女を言いくるめ…じゃない。説得してる時だった。


こんな偶然があっていいのだろうか。


女の子と貴弥と私。


3人の会話の一部を、兄貴は聞いてしまった。


結果。


問答無用とばかりに、兄貴は貴弥を殴り飛ばした。


兄貴が居ることに気付かなかった、私の責任でもある。


兄貴は床に倒れた貴弥の胸倉を掴んで、さらに殴ろうというのか、拳を振り上げる。


「兄貴!やめてよっ!」


ここがどこかさえ、どうでもいい。


今は兄貴を止めなきゃ。


「離せ、莉生!」
「駄目だってば!仕事クビになったらどうするのよ⁉」
「そんなはもんどーとでもなる!」
「なるわけないでしょ!やめてってば!」


ぎゅう、と兄貴の腕に抱き付いて、なんとか兄貴を押し留める。


「こんなふざけた男が莉生の彼氏⁈冗談じゃねぇぞ‼今すぐぶっ殺す」
「違うってば‼」


話を付ける予定の女の子はまだ居るから、これを言えば、貴弥は困ったことになるんだろうけど、ここで殺されるよりはマシなはず。


「付き合ってないんだってば!高校からの同級生で、頼まれて彼女の振りしてるだけなのっ‼」


途端、兄貴の腕が力を失った。