その頃、陽生は自宅で必死に原稿を打ち込んでいた。


夕べの衝撃的なキス以来、ソウルダイナーに顔を出せなくなった事もあるが、何よりも原稿の締め切りが迫っていたから。


担当者からの電話が鳴り、着信ボタンを押せば悲鳴に近い声が聞えて来る。


『haruさん! もう約束の期日が迫ってますよ。せめて、アップしている部分だけでもお願いします』
「実は、今まだ……」
『困るんですよ、それじゃ。本も出された以上、プロなんですから』


相手からは責める言葉しか聞えて来ず、左肩で携帯をはさみ、会話をしつつも手を動かさなくてはいけない状況。


『今夜中にお願いしますよ、出来ている所だけでもいいんですからね』
「はい」


作家というものは、大変なんだなと初めて思い知る陽生。