電話に出た陽生の耳に届くのは、愛しい樹の声。


『陽生、俺、驚いたぞ』
「ごめんな、だいぶ前から編入してたんだけど」
『なあ、どうして編入して来たんだ? だって、お前の家は転勤なんて無いだろ』


そうたずねられて、陽生は言葉に詰まるが、自分が入学したばかりの時、報告のために送ったメールを読んでくれていなかったのかと肩を落とす。


「あー、ほら、うちの地元ってあんまり有名な大学に行かれないし」
『そっか、じゃあ頑張れよー。学校じゃまず会えないだろうけど』


冷たく切れる電話、陽生は深い溜め息をもらして足元を見る。


『学校じゃまず会えない』=「会いたくない」に聞えるような口調だったから。