そんな姿を、あたしは陰ながら応援しているのだ。



お母さんが電話を切るのを確認して、あたしは話しかける。



「お母さん、もう少しで時間だけど……大丈夫?」


「ゴメン、紗奈。今日お母さん、卒業式行けなくなっちゃった」


「え……」



あまりにも突然すぎて、あたしは言葉が詰まる。



「いきなりね、会議が入っちゃって。ゴメンね……」


「……そっか、わかった。入学式は来てね?」


「うん。ありがとう」



それだけ言うと、玄関へと小走りで向かい、靴を履き始めた。



「あ、お母さん。忘れ物」



机の上に置きっぱなしだった財布を見つけ、あたしは玄関まで走った。



「ありがとっ。じゃあ、行ってくるね」



財布を受け取ったお母さんはドアを開けると、一直線に駅のほうへ走って行った。


行ってらっしゃい、というあたしの一言なんて、きっと届いていないのだろう……。



お母さんを送り出し、再びリビングへと戻る。