ピアスに恋した少女

お母さんがいなくなって静かになったリビング。

聞こえるのは町の朝の音と、時計の秒針くらい。


そんな何も感じさせない空気に、ただ1人あたしは立っていた。





「おはよー」



クラスに入ると、みんなが式の支度をしていた。



「あ、紗奈!遅いーっ」


「ゴメンゴメン」


「はい、これ」



あたしにリボンで作られた赤い花のブローチを渡すのは、友達の小川 莉奈(オガワ リナ)。

莉奈とは小学校からの仲で、入学する高校も同じなのだ。



「ありがとう」



ブレザーにそれをつけていると、先生が入ってきた。



「そろそろ体育館に向かいます。準備はいいですかー?」



耳にキーンとくる、先生の大きくて高い声。

みんな迷惑そうな顔をしながらも、「はーい」と返事をした。





体育館へみんなで向かうと、ザワザワと騒がしい中の音が聞こえる。

まだ式場に入っていない保護者が、ぞろぞろと列を成して体育館へ入っていく。