「…ごめん。
あたし、何焦ってんだろ。」
返事をしない俺の代わりに、梨華子さんが話し出す。
前髪をくしゃって掴みながら、一緒に壁を背にした状態で寄り掛かった。
「ゆんちゃんって呼んだ子…。
あれ、松の想い人でしょ…?」
前に…―
バイトの控室に居た時、俺と直哉と梨華子さん。
他に3人位居たかな…。
彼氏在り…、彼女在りか。
そんな話しで盛り上がった事があった。
俺は紗由と別れたばっかりで、
『元彼女が今でも好きだ。』
そんな事を言った気がする。
女の洞察力は侮れないもので… 紗由が俺を呼ぶ雰囲気だけでわかったらしい…―。
『まぁ…、そうっすね。』
「ふーん…。
普通の子じゃん。」
少し刺々しい言い回しだった。
梨華子さんの気持ちはわからないでもない…。
でも、紗由を悪く思うのはやめてほしい。
俺が勝手に好きなだけ。
アイツは俺には大切な奴だから…。
『皆そんなもんじゃないんすか。
自分の好きな人なんて可愛く見えるし、1番に思えるし…。』
梨華子さんが傷つくのはわかってた。
今、横で……
涙を堪えてるのもわかってる。
でも… 紗由を普通呼ばわりされて、反論しない訳にいかねぇじゃん…―
.

