『紗由…。』





強い太陽を浴びて、うっすらと汗が滲んでる。


ブラウスにへばり付いてる体温が、外の空気と一体化して熱を発していた。




虚ろな瞳。






紗由も眠れなかったのかな…、なんて淡い期待をしてしまう。


俺の事を考えてるなら、例えそれが怒りでも良いんだ…。

そうすれば… 忘れられない。








「ゆんちゃん…。こんな所で何やってんの?」



右の眉を引き攣らせて紗由が止まった。

今…、俺の顔は怒ってるのか?



自分の表情さえわからない。


ただ…―

紗由の手を掴みたかった。










『待ってた。ちょっと話したくて…。』


「紗由はないよ。

昨日の事だったら直哉に聞いたから〜。」






横を通り過ぎて上履きを手にしていた。


目すら合わせない事に、予想はしたものの少しへこむ。




紗由には弘海が居て、俺はただの友達。


しょうがないって言い聞かせた事もあった。

自分が悪いって思うしかなかった。





でも…、心の中では好きが勝ってて、紗由を想う度に“あの日”を後悔してる。








別れを告げられて、あっさり引き下がったあの日。







『俺はあるんだよ!いいから来いって!!』



細い手首を掴んで走った。




財布と水しか入ってない鞄はガチャガチャと音を出し、
走る速度に合わせて大きくなっていく。