『お〜、なっちん。
いや、早起きしちゃってさ。』
出来るだけ前を向いて話した。
勘の良いなっちんの事…。
俺の目を見れば直ぐに気付かれてしまう。
「……。
祐輔、目充血してるけど…。
泣いたのかな?眠れなかったのかな?」
意地悪な瞳と視線が交わる。
得意げに八重歯を出して笑うなっちんは…、悪魔の微笑み。
紗由の気持ちも知ってるせいで、俺はなっちんに敵わないのを熟知してる。
『…っせーな。泣いてねぇよ。
…眠れなかった… そんだけ。』
眩しく照らす太陽が痛い。
夏を目前に控えた陽射しは容赦なく降り注ぎ、睡眠不足の瞼を閉じさせていく。
俺の半歩前を歩いてたなっちんが振り向いて、珍しく真剣な顔を見せた……
「昨日…、一緒に居たのって彼女?
祐輔忘れられないって言ってたじゃん。あれ、嘘だったの?」
なっちんの唇がドラマの1シーンのように見えた。
物凄くゆっくりと動いて、脳に辿り着くまでに時間が掛かる…。
“忘れられないって嘘だったの?”
暑さとなっちんの言葉…―
足元がふらついて、我に返った。
『嘘じゃねーよ!つか、彼女じゃない!!
…って事はさぁ、紗由も…、勘違いしてる?』
首を縦に振ったのを確認した。
さっきから通り過ぎる生徒達の視線が、今の声で確信めいた物になる。
目を閉じたまま肩を落とすなっちんは… 助けられないって言ってるみたいに見えた…――

