恋人で居る時なんて、ほんの一瞬。
俺は…そう思ってる。
紗由と想い合えてた時間を大切にしなかったから。
心の隙間に亀裂が入った。
『梨華子さん…。俺…―』
「やだやだ!聞きたくない!!
まだ答えなんて出さないで。松、あたしの事もうちょっと知ってよ…。」
耳を押さえて梨華子さんは座り込んだ。
自分と被るこの光景…。
俺と梨華子さんは似てるんだ。
だから引力で引っ張られる。
友達って言う名の… 引力。
「松が寂しくなったら側に居たいの。
あたしに電話くれる位の大きさになりたい。」
もう…―
何も言えないだろ。
女の人にここまで言わせて、突き放す事…出来ない。
『…ありがとう。
梨華子さんの気持ちは受け取っとくからさ……』
駅に向かう道から学生達の声が響いてた。
付き合う者同士で帰る奴や、友達と帰る奴。
たくさんの人が居る中で…、梨華子さんが俺を選んでくれた事にも意味があるはず…―
「あたし… 松が好きだからね。」
最後にもう1度だけ……
聞こえた、愛の告白。
梨華子さんの潤んだ唇を見つめてた……。
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