龍の瞳にうつる女は


真冬だと言うのに、薄手の黒い
７分袖のワンピースを着ていて


凍えた体を包むには
気休めにしかならない
白いストールを肩から巻いていた


そしてその女は
歩いているのに死人のような
表情をしている



女にすれ違う人間が注ぐ物は
愛情でも同情でもなく

気持ち悪い物を
見た時と同じ視線か見てみぬフリ
だけだけだった。



「………」
龍は自分でも気付かない位の
小さな声が出た。

女の顔を見て驚きのあまり
放心状態だったからか

「……ゅ…り？」


女は顔や足にも
アザやキズがあり

裸足で歩いていた。



龍はコートを脱いで女に近付き
コートを着せた。


女は死人のような顔で龍を見た。



「おまえ何してんの？」
声を張り上げた事は自分でも
わかった。

「･･････････････」
女は何も言わなかった。


「口聞けないのかよ。」
龍は何故だかｲﾗｲﾗした。



「･･･ｼ･･ｧ･ﾜｾ･･ｻｶﾞｼ」
凍えた唇が震えていた。



青信号になり止まっていた人々は
歩きだした。


海斗達も龍の元へ歩き出す。



龍の少し長めの黒い髪が
揺れたのは冬の冷たい風のせい
ではなく



龍が女を肩にしょい込み
走り出したからだ。