「きりーつ。」
学級委員の号令で生徒たちは立ち上がり、机に椅子を入れる。
「気を付け、礼。」
「お願いしまーす。」
適当な挨拶をしてバラバラと座っていく。


昨日家に間違って持って帰ったんだ。それで気づかなくて…。


「今日は教科書忘れたら問題解けないからな。じゃあ64ページ開いて。」
黒板に数式を書いている先生が突然振り向いてそう言った。
チラッと唯のほうを見ると唯と視線があう。
唯はノートの端を破くと、何かを書き込みこっちに投げた。
その紙切れには「もしかして忘れた?」と書いてあった。
「うん。」と返事を書いてこっちからも投げ返す。


読み終えた唯は顔をあげてニンマリと笑った。
先生が後ろを向いたのを確認すると、次は口パクで伝えてきた。
『と・な・り・に・た・の・べ・ば』
はあ?あんたも隣でしょうが。
『な・ん・で』
唯は何も答えない。前を向いたまま。