「最低だ、あたし…」


制服の袖で涙を拭いて、それから正紀の目を見た。
瞬きすら許されないようなそんな気がした。
一瞬でもこの目から正紀を離せないと思った。



「あたしのこと殴っていいよ」


その言葉に正紀の眉がピクリと動いた。


「あたしが間違ってた。あんたの気持ち、軽く見てたのはあたしの方た。それに、こないだあたしだって、正紀に手上げ…」

「やめろ」


あたしの言葉を遮って、正紀はあたしから目を背ける。
さっきまでより更に苦しそうな顔をして、その目には涙も溜まっているように見えた。


「やめてくれ…」


微かに震えて聞こえた。
聞いてるあたしまで苦しくなった。


「女が殴れなんて言うんじゃねぇよ」


そして、正紀の右手が急に伸びてきて、あたしの頭をその大きな手で掴むと、こっちを向いて小さく笑ってみせる。


「好きな女殴れるわけねぇだろ…」


まるで呟いたかのようなその言葉の後に、ガンガンと頭を揺らされた。


「痛い!痛いって!ちょっとっ!」


あたしは正紀の手を払い退けて、乱れた髪を直しながら、正紀を睨みつけると、その様子を当の本人はバカにしたように笑って見ていた。

そして、


「…これで許してやるよ」