社会人や休日の人間で賑わいを見せる駅前、その一角にある喫茶店が今回の話の舞台だ。
 亜矢は慣れた様子で喫茶店のドアをくぐる、その時に鳴るベルの音が少し気に入っている亜矢だった。
 喫茶店の雰囲気はどこか昭和を思わせる造りでカウンターで豆を挽くマスターの姿も何故か懐かしく感じる、そんな暖かい雰囲気の喫茶店。

「こんにちはマスター、東城さん来てます?」
「ああ、いつもの席で待ってるみたいだよ。亜矢ちゃんはカフェオレだね…用意出来たら持って行くから待ってておくれ」

 初老に差しかかった優しい雰囲気のマスターに挨拶をするとそのまま亜矢は歩き出す、いつものと呼ばれた指定席は店の奥角にあり内緒話をするにはもってこいの場所だった。
 かつかつと革靴を鳴らしながらちょっと歩けば目的の場所に到着、喫茶店の中の広さなんて知れている。
 そして二人掛けの席に座る、向かいには亜矢を呼び出した男性が座っているが亜矢は挨拶をせずにまずは一言皮肉をぶつけた。

 「平日から中坊を呼び出す刑事ってなかなか居ませんよね、しかも真っ昼間に…どう思います東城さん、私まだ眠いんですけど」

 座るや否や笑顔で毒を放つ女子中学生、それを笑顔で受け取る刑事。なんとも言えない光景だ。
 東城は刑事をやっている。様々な体験を経て亜矢と出会うのがここでは割愛する、しかし今では互いに皮肉を言いながら笑いあえるパートナーのような関係になっていた。

「ごめんごめん、昨日も事件の処理で朝帰りさせちゃったのにね…今回もなんだ、いや…今回はちょっと色々と大変になるのかな、だから君の力が借りたい」

小さく苦笑しながら頭を下げる東城、だが顔を上げると東城は刑事としての顔になっていた。

「今回はって久しぶりに大きなヤマに当たったんですか?…今回は何日宿泊の予定で?」

 東城の真剣な顔を見てこれは久しぶりに大きいな…と直感した亜矢は気持ちを切り替えて東城を問いただす。

「少なくとも三日は滞在予定だね、もしかしたら伸びるかもしれない…とにかくまずはこれを見てくれないかな?」

 真面目になった亜矢を見て一つ頷くと東城は黒革の鞄から一枚の髪を取り出した。

 亜矢の探偵としての一日が始まった。