部屋に入ってきたケイゴくんは、唇の端が切れて血を滲ませていた。


「どうやった?」

「ダメだな。いつもなら逆ギレしない奴なのに、今日はひどすぎたな」

「逆ギレ? 翔さんがか」

「え……え?」


二人の話が見えない。


「あの、ケイゴくん……」

「璃里香ちゃん、いらっしゃい」


ケイゴくんはあたしを見るなり、にっこりと微笑む。


さっきの翔さんの冷たい目があたしの中から少し薄れた。


……って、そうじゃない。


「ケイゴくん、その傷……どうしたんですか?」

「ん。そうだね、璃里香ちゃんにも話さないといけないな」

「せやな。何も知らないとは言え、璃里香は被害者やからな」

「え、何? なつは知ってんの?」

「あのな、うちは璃里香の親友であると同時に、ケイゴくんの彼女やで」

「知ってるけど……」

「まずは翔の親友として謝るよ。さっきは翔がすみませんでした」


体を折り曲げてあたしに謝るケイゴくんに、戸惑いを隠せない。


「い、いえ……」


謝罪よりも先に、なんでさっきの出来事を知っている口ぶりをするのかをさっさと説明してほしかったのが本音だった。