「……離してください」


あたしは泣くことが嫌いだ。


翔さんが、あたしの泣き顔は嫌いだと言っていたから。


こんな状況でもあたしは翔さんが好きだと思ってしまう。


……あ、これ、物語だったら、かなりやばい状況かな。


主人公の危機とかいうやつ?


でも、こういうときの主人公って、大抵嫌って言いながら実は攻められることが嫌じゃなかったりするんだよね。


最終的にはちゃっかり受け入れちゃってるし。


てか、主人公ってドMが多いのか?


あたし? たぶん、これを言ったらムードも何もない……って、ムードもくそもないか、これ。


そうですよ。あたしは密かに楽しんでいる、というか、喜んでいるというべきか。


好きな人にこんなことされて、嫌なわけがない。


目の前の翔さんが怖いと思うのは事実だ。


恐怖とともに嬉々が存在している。そんな現状。


「……何笑ってんだよ」


あたしは顔に出していたらしい。


鈍い痛みが頬を貫き、視線は翔さんから外れた。