結局、あたしの家に着くまで朝霧は終始不機嫌だった。





「ん」




仏頂面のままあたしにカバンを差し出す朝霧。





「あ、ありがと」


「…じゃーな」




そしてフイッとあたしに背を向けると、気だるげに今来た道を戻っていく。





…今、しかない。






「…あ、朝霧っ!」







“お前の以外いらねーよ”



渡しても…いいんだよね?





「…何」




相変わらずの仏頂面のまま振り向く朝霧。





あたしは朝霧の近くまで駆け寄ると





「…これ」




カバンの中からマフィンを取り出した。






「…あ、あげる」


「…………」





驚いたように目を大きく見開き、固まる朝霧。





「…いらない?」






不安になって、恐る恐るそう尋ねると。





「…いらねぇわけねーだろ、バカ」




朝霧はマフィンを持つあたしの手をつかむと、





「っわ」





そのまま力強く引き寄せた。






あたしの背中に朝霧の手がまわって、朝霧のシトラスの香りに包まれる。





「…あ、朝霧…」





朝霧の腕の中はどうしようもなくドキドキして、躊躇いがちにそう名前を呼ぶと、朝霧は一瞬ビクッと体を震わせて、慌てたようにあたしを引き離した。





「…じ、じゃーな」




そして心なしか上擦った声でそう言い、早足で歩き出す。





えっ





「あ、朝霧!マフィンは!?」


「………」





朝霧ははた、と足を止めると






「…サンキュ」





あたしの手から乱暴にマフィンを奪い取っていった。




マフィンを奪い取る瞬間に一瞬見えた朝霧の顔は、耳まで真っ赤で。





……喜んでくれたって、思っていいんだよね?






あたしは自分の顔まで熱くなっていくのを感じながら、ロボットのようにぎこちなく歩く朝霧の背中を見送っていた。