そいつの名前は榎波葉純。




同じクラスの女子。





特にこれといって目立つところのない、平々凡々な女子…のはずだったのだが。






「これ今日配られた数学のプリント」





ある日の10分休み。




教室の席でだらけきってる俺に、榎波が突然近づいてきて言った。




別に何てことない用事だったが、俺は酷くびっくりした。





俺はどうやら外見が怖いらしい。



普通に誰かを見ていても、見られた方は俺に睨まれていると感じるらしいし、電車で目があった赤ん坊に3秒で泣かれたこともある。


口も服装も態度も悪いし、だから普通の奴らはまず俺に話しかけようとしない。近づくことすらしない。俺の半径1.5メートルの人口密度が常に少ないのは、たぶん気のせいじゃない。



だからそれまで何の関わりもなかった極々普通の女子の榎波が、突然俺のテリトリーに侵入してきたのは、俺にとってかなり衝撃的な出来事だった。




「コレないと今度の中間やばいって先生言ってたから」





そして、ん、と俺にプリントを差し出す。





クリクリした黒目がちの目が俺をじっと見つめてて。




「………」




無言で俺がプリントを受けとると、榎波はクリクリした目をちょっと細めて笑った。






「あと授業もうちょいちゃんと出た方がいーよー!!!」






…俺って案外チョロい。