「……倉沢さんってもっとクールな人だと思ってたけど、案外、ていうかすごくかわいいね」

「……三浦さんは、結構いじわるだね」


鏡を見なくても今の自分の顔がどういう状態かわかるから、恥ずかしすぎて顔を見られなくて目を伏せた。

どれだけ否定したって、こんな顔じゃ説得力はまるきりゼロだ。

……くそ。ハナのやつ、おぼえてろ。

なんて、意味のない八つ当たりを、心の中でしてみたり。


「ま、その辺りはおいおい訊くとして、芳野先輩のことだけど」


三浦さんは机の上をこつこつと指で突きながら、思い返すように視線を斜めに飛ばした。


「あたしも、そんなに詳しくは知らないんだけどね。ただ、あの障害は事故でって兄貴に聞いたよ」

「事故?」

「うん。中1のとき。結構派手な事故だったらしいよ。交通事故」


その事故についての詳細はわからないけれど、しばらく入院していたほどの大きなものだったみたいだ。


『頭のビョーキでね。じゃなくて、ケガだったかな。忘れちゃった』


本当に綺麗に忘れていることなのか、それとも知ってはいたけどとぼけていたのか。

わからないけれど、ハナはあのとき、そう言っていた。

でも、事故、っていうことはつまり、病気じゃなくて怪我が原因?

後天的に、突然に、理不尽に起こったこと。


「確か、1日しか記憶がもたないんだっけ。なんかね、その事故より前の記憶は普通にあるんだけど、それよりも後の記憶が、1日しか続かなくなったって」

「……そう、なんだ」


だからハナは、中学校の名前は言えたんだ。

わたしが憶えているのと同じように、そこに通っていた記憶は頭にあるから。

でも、中学校生活の大半と、高校に上がってからの今まで。そして、これから。

ハナの頭の中には、たった1日しかない。