「奏ちゃんはあの日、子供を助けたんだ。3歳の女の子」


リクの声は悲しそうで、けれどどこか誇らしげにも聞こえて。

私は涙を拭うことも忘れたまま、リクの話を聞いていた。


「その子、こはるちゃんって、いうんだ」


お前と同じ名前の子の命を救ったんだよ。

そう言われて、私の心が切なさに震え強く締め付けられると、さらに涙が零れ落ちていく。


「奏ちゃんの体はボロボロだった。それで、脳死ってお医者さんに言われて……奏チャンのお父さんとお母さんは、悩んで、決断したんだ」


脳死という言葉に、リクが何を話そうとしているのか予想がついた。


「奏チャンの命が誰かの命に繋がるなら。小春の命にも繋がるかもしれないならって、臓器提供に同意した」


トクンと、強く優しく打つ心臓。

もしかして……

そんな気持ちと共にそっと手をあてれば、伝わる確かな鼓動。


「この、心臓は……奏ちゃんのなの?」


声にしたけれど、それは、永遠に答えの出ない問い。

だけど、いろんな事が一致する。

提供者の年代と性別。

血液型。

タイミング。

なにより……


移植後の、夢現に聞いた奏ちゃんの言葉。