ドナーとレシピエントは互いに相手が特定されないよう秘密が保たれている。
だから、生涯相手を知ることはできないし、ご家族に直接お礼を伝えることはできない。
私が知っているのは、ドナーは十代男性で、臓器提供意思表示カードを所持していたという情報のみ。
相手にとってもそれは同じ。
名も、姿も知らない私に、こうして命と未来をくれたことに、心から感謝している。
「それと、ひとつだけ」
先生が、真面目な表情で私を見た。
「みんな、小春ちゃんが大切だから時を待っていたんだよ。そして、そうするように頼んだのは私なんだ。だから、責めないでやって」
「……えっと……何を、誰を……ですか?」
問いかければ、先生はそっと微笑む。
「もうすぐわかるよ。陸斗君、辛い思いをさせて、すまなかった」
「……いえ。奏チャンも、きっとそうしてくれって言うはずだから」
……奏ちゃん?
意味を掴みかねて、どうして奏ちゃんなのか聞こうと口を動かそうとした時。
「退院おめでとう。また、来週の診察でね」
先生に話を打ち切られ……
「はい……」
言葉は行き先を失い、頷くのみとなってしまった。



