病室は、日常の匂いが少ない。

手で触れるものには家庭のあたたかさはなく、目で見るものも限られていて。

窓枠に収まる景色も、季節と天候により景色を変えることはあっても、そこにあるものは変わらない。


ここにいると、何気なく過ごしていた日常の大切さに気づかされる。


見慣れた住宅街、通い慣れた道。

学校に行けば友達がいて、親友がいて。

あくびをこらえながら受ける午後の授業。

放課後の寄り道。

夕暮れ、道路に並んで伸びる三つの影。


気づかず当たり前になっていた、愛おしい毎日。


「早く……戻ろう……」


早く戻って、リクを安心させてあげたい。


ほらね、って。

リクがいてくれたから、私は元気になったんだよって。

あなたの存在があるからこそ、私は幸せだと感じることができるのだと。