学校の廊下で、新谷が双葉に向かって「美乃ちゃんからのチョコなら毎日受付中。どんなに不味くても完食するよ」と言い、双葉が「あげない。でも、しつこくするなら、とんでもないもの作ってあげようかしら」と黒い笑みを浮かべていたのを目撃した2月も下旬に入ろうとしていたある日のこと。

オレは放課後になると奏チャンと一緒に小春のお見舞いに行った。

小春の状態は依然として良くはないけど、奏チャンならという許可をもらったからだ。

そして、運がいいことにその日は小春の体調がここ最近で一番良く、小春の笑顔も多く見られて……

冬の夕方、もうすぐ日も暮れる逢魔ヶ刻。

小春の病室を出たオレたちは、病院前のバス停にあるベンチに腰掛けてバスを待っていた。

タイミングが悪く、バスは出たばかり。

ダッフルコートに身を包んだ奏チャンは、白い息を吐きながらオレを見る。


「小春、このまま良くなってくれるといいな」

「良くなるよ。アイツ、頑張ってるし」


生きようと、頑張ってる。

きっと、少しはあるだろう、吐きたくなるはずの弱音も口にせずに。


「うん、そうだな」


奏チャンは微笑んで、紺色に染まっていく空を眺めた。