桜涙 ~キミとの約束~



「……何か、あった?」


絵本を閉じて私を見るリクの瞳は、不安で揺れていた。


「うん……あのね、移植を勧められたから、登録することになったの」

「い、しょく……心臓移植?」


──コクリ。

頷くと、リクは一度唇を引き結んだ。

そして彼は、何か言おうと口を開いたけど、結局何も言わずにまた閉じる。

だから、私が代わりに唇を動かした。


「移植ができれば、元気になれる。学校に戻れるし、リクとももっと一緒にいれる」


移植によりもたらされるであろうプラスの面だけを声にして、できるだけ悲観しないように、前向きな姿勢を見せたつもりだった。

でも、リクは眉を寄せて悲しげに微笑んだ。


「デートも、いっぱいできるな」


紡がれる言葉は、未来を望むもの。

なのに、リクの表情は曇っている。


どうしてかを想像するのは容易かった。

けれどそれを口にしないのは、リクが過去の痛みと戦っているからだと感じて。


「行きたいところ、決めておかないとね」


私は、大丈夫だと声にする代わりに笑ってみせた。