……ダメ。

ここで弱気になったら良くなるものもならない!


「そうだよね。頑張って薬飲む!」


宣言すれば、奏ちゃんはニッコリと笑ってくれた。

それは、いつもと変わらない優しい奏ちゃんの笑み。

後夜祭の時に見た奏ちゃんの面影はどこにもない。


恐ろしい言葉も、切なく吐き出された懇願も、泣きそうな声も、全部夢だったんじゃないかと思えるほどに。


でも……夢なんかじゃなくて、あれは確かに起こった事で。


ただ、その現実に、私と奏ちゃんはあえて触れないようにしている。


「小春、信号赤だよ」


駅前の横断歩道で、私は奏ちゃんの声により足を止めた。

考え事をしていたせいで、うつむいてしまっていた顔を上げると、信号は赤を示している。


「あ……奏ちゃん、ありがと」


奏ちゃんがいなかったらうっかり渡ろうとしていたかもしれない。

お礼を言うと、奏ちゃんは心配そうな顔をした。