「あー……それはきっと、日頃の行いのせいで僕から逃げる事を考えてたせいかもな」


奏ちゃんはやれやれといった感じで話す。

リクなら確かにありえる話で、私は笑った。


「奏ちゃんちのお菓子って本当に美味しくて大好き」

「父さんが聞いたら喜ぶよ」


柔らかく微笑む奏ちゃん。

風が吹いて、彼のミディアムショートの黒髪を撫でるように通り過ぎていくと、柔らかく立ち上がるトップの髪が気持ちよさそうに風に泳ぐ。

春をとうに過ぎた風は、初夏の始まりを告げるかのように……


少し暖かかくて、どこか不安だった私の心を温めてくれた気がした。