桜涙 ~キミとの約束~



「あ、まさかもう売れ切れてたりっ?」


焦ると奏ちゃんのお母さんはフフッと上品に笑う。


「冷蔵庫にあるからおやつに出してあげる。桃とオレンジとグレープフルーツがひとつずつあるけれど、どれがいい?」

「私は桃派だけど、確か奏ちゃんも桃派だから──」

「あの子はいいの」


低く強い声で言われて、私は一瞬肩を震わせた。

今の声は、奏ちゃんのお母さんが奏ちゃんに接する時の声だ。


「お客様優先よ」


ニッコリと笑った奏ちゃんのお母さん。

私は「ありがとうございます」とお礼を口にしてから、リクにも聞いてくると言って踵を返して階段を登った。

相変わらず奏ちゃんには冷たいんだなぁ……

血が繋がっていない。

"それだけの事"とは思わないけど……

奏ちゃんがいない場所でもあんな風に言うなんて……

小学校の頃、奏ちゃんがひとりぼっちだと感じて、家に帰りたがらなかったのも、わかる気がした。