いつの間にか日は暮れて、暗くなってきた病室内。
奏ちゃんは立ち上がると部屋の電気を点け、再びパイプ椅子に腰掛けると、私を見て寂しそうに微笑む。
そして、ゆっくりと唇を動かして教えてくれたのは……
「うちにいる母さんはね、僕の本当の母さんじゃないんだ」
初めて聞く、奏ちゃんの家の事情だった。
奏ちゃんが私とリクに出会う二年前のこと。
桜が咲き始めた季節に、奏ちゃんの両親は離婚した。
「理由はよく知らないんだ。でも、最後の日、母は僕を抱きしめて泣いてた」
ごめんなさいと泣きながら奏ちゃんを抱きしめた本当のお母さんは、名残惜しそうに奏ちゃんの体から離れると……
そのまま、振り返らずに去っていってしまった。
零れる涙を拭う奏ちゃんと、ただ黙って見送る奏ちゃんのお父さんを残して。



