桜涙 ~キミとの約束~



「小春ちゃーん。雑誌返しにきたー」


ひょこっと顔を出したのは、梢ちゃんだ。

梢ちゃんは前に奏ちゃんが買ってきてくれた雑誌を手にしていて。

その瞳が、パイプ椅子に腰掛けている奏ちゃんへと向くと、目を丸くし笑みを浮かべた。


「わっ、イケメンさんだ」

「こ、こんにちは」


戸惑うように微笑んで、奏ちゃんが会釈をする。

そうすれば、梢ちゃんも「はじめまして、こんにちはー」と言いながら、頭を下げ……すぐに、私に視線を向けた。


「ねね、もしかして、彼が例のイケメン?」


聞かれて、すぐには思いつかなかったのだけど、梢ちゃんが指すのが奏ちゃんではなくリクの事だと気づいて、私は苦笑いとともに頭を横に振って見せた。


「違うの? でも、彼もイケメンさんだよね。って、ごめん。お邪魔だよね」


慌てた様子で謝罪して、梢ちゃんは奏ちゃんにお辞儀をしたあと、私に「またね」と言い残し、雑誌を置いて病室を出て行った。

ほんのりと笑みを浮かべて梢ちゃんを見送っていた奏ちゃん。

扉が閉まると、その笑みが……消えた。