桜涙 ~キミとの約束~



初夏の風に揺れる緑の葉。

その上に広がる空に、夕暮れの綺麗なグラデーションが描かれ始めた頃、制服姿の奏ちゃんがお見舞いに来てくれた。


「それで、経過はどう?」

「うん。薬が効いてるみたいで、悪くはなってないよ」


私が答えると、奏ちゃんは安堵した笑みで「良かったな」と喜んでくれる。

そう、経過は順調だ。

実は、治療開始直後に、植え込み式徐細動機の話しがあった。

それを体内に植え込むと、致死性不整脈を予防する事ができるらしい。

でも、先生からの説明だと、心臓ペースメーカーといわれる心臓の収縮を発生させる医療機器よりも誤作動を起こす恐れがあるとの事で両親とともに悩んでいた。

けれど、処方されてる薬の効果が早々に出て、これなら大丈夫かもしれないと先生に言われたのが、今日の午前中に行われた診察の時だった。


「早く退院できるといいな。双葉さんも寂しそうだよ」

「うん。私も早くよっちんと、前みたいに過ごしたいな」


私は喋りながら、一昨日、よっちんもお見舞いに来てくれたのを思い出す。